三界をさまよいながら倉敷へたどり着く。
すると、背中を丸めて入っていく後姿、
見たことのある髪型、安藤忠雄だ。
公演まで時間があるのでアンドーはサイン会を始め、
まだまだ鼻息の荒いアンドーを、
ちらちら見遣りながら僕は席に着く。
サインをもらった人たちの顔はとても幸せそうだ。
まだ時間はあるのでしばらく公民館を散歩する。
気がつくと、僕は本を片手に安藤忠雄の前に立っていた。
サインをもらってしまっている。
その勢いは止まることはなかった。
「握手してもらってもいいですか」
すると、アンドーは力強く手を出し、
僕の、か細い右手をしっかりと握ってくれた。
公演の内容は「文化の力」
自分なりに解釈してみた。
頼まれてヤルのは建築設計、
頼まれもしないのにヤルのが街づくり、
であると・・・。
アンドーはいつもの口調で吠えた。
「面白いことを探し、勇気を持たないと老いていく。」
アンドーの確信犯的創造力を、
役人対し、我々民間人に対し投げつけた。
ちぎっては投げ、丸めても投げた。
よく「好きな建築家はいますか?」
と、聞かれることがある。
ブログでも何度か登場する安藤忠雄。
地中美術館を見て以来、
僕の体にアンドー汁が浸透し始めているが、
そこで僕は「安藤忠雄です」と、うっかり答えないようにしている。
あまりにも凡庸な答えに自分が吐きそうになるからだ。