ここには廃墟の詩情はない。
あるのは現場の生々しさのようなものだけ。
つまり、ノンフィクションのホコリが立ち上っている。
かつての住人が住み暮らしていた部屋はブチ壊され
割れたガラスの隙間から風が吹き込んでくる。
光だって洩れてくる。
得も言えぬ自由が溢れてくるような気分である。
考えてみればこのリノベーションが
ミニマリズムとデザインの考える第一歩であった。
初歩的なミニマリズムとはデザイナーの私性を捨てて
他者の中に生きようとすることではないだろうか。
住宅であって住宅でない、
集合であり単体でもある、
豊富であって何もない、
形はあるが同時にない、
つまり、良く生きるための道具としてのカタチはあるが
デザインはない。
ミニマリズムとデザインの関係とは
絶対矛盾を内在させながら深い。